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財政破綻と再生FINANCIAL FAILURE AND REVIVAL

夕張市の財政破綻の概要

1)夕張市はなぜ破綻したのか
 夕張市の財政破綻したとき、市が実質的に負担しなければならない負債総額は632億円に上り、この金額は、平成16年度(2004年)の市税収入は9億7000万円で負債総額の割合は65倍で夕張市の解消すべき赤字は、地方債残高を除いた353億円となってた。
 これほどの借金を抱えることになった原因を探っていくと様々な社会的、経済的な要因が絡み合いの構図が浮かび上がっております。

 要因の1は、「炭鉱閉山後の社会基盤整備」について、本市はかつて石炭産業を基幹産業として発展し、昭和35年には人口11万6千人を有する「炭都夕張」として最盛期を迎えていた。
 しかしながら、相次ぐ炭鉱災害及びエネルギー変革により、24の大手炭鉱が次から次への閉山し、平成17年度国勢調査の結果では、人口は1万3千人と約9分の1まで激減し、全国都市中人口激減率は第1位。
 ちなみに平成22年度国勢調査の速報値では1万925人で、最盛期の10分の1となっている。
 その後、炭鉱に代わる基幹産業として観光等の基盤づくりを短期間で仕上げたことにより、財政構造は極度に悪化し、これら地域活性化対策事業の財源の大部分を地方債に依存し実施せざるを得なかったことから、公債費が多額となり財政の硬直化の大きな要因となった。
 閉山跡処理対策に費やした費用は昭和54年度以降16年間で584億円、平成17年度人口1人当たりに換算すると、公債費は類似団体の約3倍の17万6千円となる。

 要因の2は、「行政体制の効率化の遅れ」について、昭和35年、人口ピーク時の最盛期に必要とされた職員数が615名であった。
 その後の閉山による人口の激減は到底想定でき得るものではなく、職員の定年退職での自然減と新規採用の調整等で行政体制の効率化を図ってきたものの当時としては人口に見合った職員数及び人件費の仰制が不十分であった。

 要因の3は、「観光施設過大投資」について、観光事業はポスト石炭産業として新たな産業創出のために「石炭の歴史村公園」を整備したことから始まり、その後は、観光客の多様なニーズの応える総合観光を目指してホテルなどの宿泊施設の整備を図ったところであります。
 このことは、狭隘な山間地域に閉山となった石炭産業が残した炭鉱施設や住宅が放置され、また、民間企業の進出が望めなかったことから、本市が自ら主体となって雇用の場の確保及び地域の振興のため、観光事業を本市の重要施設として推進してきた経過があった。
 しかしながら、このようにとり進めてきた観光事業は、長引く景気の低迷ながら、本来、使用料等の収入により賄うべき経常経費及び施設整備に係る元利償還金に充てるべき収入が不足し、赤字運営となっていった。
 こうした状況にも関わらず市は雇用の場の確保及び地域振興策の推進のため観光関連施設の整備を進めるなかMtレースイ・スキー場など多額な投資を行ったことが債務の増大を招き、多額な赤字を抱える状況に至った。

 要因の4は、「歳入の減少」について、人口の急激な減少に伴い、税収入がピーク時の昭和59年度比較した場合56.2% 12億1千7百万円の減、また、地方交付税においては、平成4年度以来、連続前年度を下回る状況で推移し、ピーク時の平成3年度と比較した場合、55.5% 38億8千万円の大幅な減少に加え、更に、平成13年に「産炭地域振興臨時措置法」の失効に伴い、この間交付された「産炭地域臨時交付金」の廃止による歳入の減少に対し、的確な対応ができなかった。

 要因の5は、「財務処理手法の問題」であるが、財政状況が逼迫する中で、4月・5月の出納整理期間を利用して会計間貸付金や償還金のやり取りを行い、そのための資金手当てを一時借入金により行うことにより、表面上の赤字額を見えやすくする不適正な手法を長年繰り返してきた。
 結果、実質的な赤字額を常識では考えられない額にまで拡大させ本来、許されない不適正な財務処理を行っていたことに対し、こうした事態を防ぐ機能が働かなかったことが長年にわたり赤字額を漫然と拡大し、ここまで、膨大な実質赤字額となった要因である。

2)再生団体になると
 法律では、財政再生計画について議会の議決を経て総務大臣に協議をし、その同意を求めることができると
されている。
 すなわち、計画を策定するための議会の議決・公表までは義務づけられており、同意については計画を策定する側の任意ということになっている。
 しかしながら、総務大臣の同意を得ない場合は、災害復旧事業を除き地方債を発行することができなくなる、すなわち起債の制限を受けることとなる。
 又、同意を得た場合は、収支不足額つまり赤字額相当分を振替えるため「再生振替特例債」の発行や、その他の地方債の発行が可能となる。
 これは、現在の夕張市が抱えた赤字額やその解消期間を考えると、国の同意なしには事実上財政運営が出来ないということになる。
 更に、財政の運営がその財政再生計画に適合しないと認められる場合又は、財政の再生が困難であると認められる場合には、予算の変更又は、財政再生計画の変更など、国が市に対し勧告することができるとされている。

3)住民への具体的な影響
 計画の「基本方針」は、歳出においては、市職員の給与水準の引き下げや各種手当の見直しなどにより人件費の削減を図り、又、住民生活に必要な事務事業費以外は原則として中止・縮小することとし、投資的事業は、真に必要な事業以外行わないなど巨額の赤字を解消するため事務事業の抜本的見直しを図るという内容であった。
 歳入においては税率・使用料・手数料の見直しによる増収や、税、公営住宅使用料などの滞納対策による収入の確保を図るという内容である。
 一方で、高齢化比率が全国都市の中でもっとも高い割合となっていることから、高齢者に配慮しつつ、又、15歳未満の年少人口の割合も全国都市で最も低い割合になっており、地域の将来を担う世代が健やかに育ち、学べる環境にも配慮しながら財政再建を取り組む内容としたとこである。

)過去の事例
 過去に、再建団体であった3町(旧方城町、旧金田町、旧赤池町)の合併で誕生した福岡県の福知町は筑豊炭田で名をはせた炭都として栄え全国に財政再建の貴重な教訓を残した。
 現在の福知町の人口は、合併により2006年(平成18年)で25,900人となった。
 赤池町は明治鉱業、方城町は三菱鉱業の会社が担い、旧金田町は両町に隣接し、主に炭鉱労働者及び家族を対象に商店街に軒を連ね、商いのマチとして栄え活気に溢れた。
 しかしながら、夕張市と同様、昭和40年代後半から50年代にかけて国のエネルギー転換により、炭鉱閉山により人口が減少、過疎化の一途を辿ったのである。
 当該3町にあっても石炭産業の崩壊の影響は、町財政構造にとどまらず地域社会及び経済の疲弊を招き、1991年(平成3年)に赤池町(現在の福智町)では、債務残高(赤字)32億円を抱え再建団体入りした。
 赤池町は、2001年3月(平成13年3月31日)に再建が完了。この間、地元住民の負担増として水道料金は12%、町営住宅の家賃や町営球場、プールなどの使用料は1割〜2割、汚水処理費は6割も値上げされ、道路の補修も外注ができないため役場の職員が自ら行うなど徹底した財政再建で予定より3年早く再建を果たしたのである。

5)財政再建への課題
 炭鉱の閉山後、28年を経過した当市は、消費人口の激減により購買力の低下を招き、過疎化に拍車がかかり厳しい状況下にある。
 当市の産業経済も炭鉱から観光、メロンのマチへと着々とまちづくりを官民一体となって進められてきたが、平成19年3月6日に財政再建団体移行について総務大臣の同意を得て18年間に及ぶ財政再建計画がスタートされた。

6)市職員の大量退職
 組織機構の見直しは、簡素で効率的な組織体制とするため、平成19年度から部制を廃止し組織統合を図り市長部局において当時5部17課30係体制を7課20係とするほか、5箇所の市連絡所を廃止し、支所の体制強化を図ったところである。
 次に職員数の削減は、普通会計に属する職員数は、平成18年4月現在、269人が平成21年度当初までに人口規模が同程度の団体の平均を下回る134人とし、平成22年度には103人となるよう職員の適正配置に配慮しながら、原則として退職者の完全不補充により削減を図ることとした。
 又、職員数の削減効果を計画初期年次には反映させるため、勧奨退職制度を改正し、早期退職を促すこととしたが、結果、平成19年4月現在では140人となり▲129名(▲48%)の職員が退職したところである。
 又、一般職給与の削減でありますが、給与制度は地域給与制度の導入など国家公務員準拠を原則とし、給料月額を平成19年4月から平均で30%削減することとした。(現在15%削減)
 平成31年4月1日現在、市職員124名(派遣職員15名含む)但し、消防職員40名を除く。

「財政再建計画」から「財政再生計画」へ

)財政再建をどう進めるのか
 平成21年4月から「地方公共団体財政健全化法」が全面的に施行されたことに伴い、再建計画から再生計画に移行されることとなった。
 これまで地方財政再建制度は「再建計画」の根拠法でもある「財政再建法」により運営されてまいりましたが、普通会計を中心とした収支の指標のみであるため、現在及び将来の負債等が明らかでなかったことや、公営企業に対しての早期に是正する機能がなかったなど、いくつかの課題があった。
 これからを克服するため、全会計を対象とした透明なルールに基づく早期健全化の枠組みを設け、それでも改善しない場合には、再生の枠組みに移行するという2段階の新たな手続きを構築するのが「地方公共団体財政健全化法」である。
 この法律では市の赤字の程度や借入金の返済に充てる公債費の負担割合などを示す「健全化判断比率」が国の定めた基準以上となる場合「財政健全化計画」・「財政再生計画」と段階的に、又、公営企業会計「経営健全化計画」の策定が義務付けられているところである。
 比率が国の定めた「財政再生基準」をひとつでも超えると、財政再生計画の策定が義務づけられる。
 次に、計画の策定と総務大臣の同意との関係などについては財政健全化法による「財政の再生」であり、国の定めた「健全化判断比率」が基準以上になると財政再生計画の策定が義務づけられる。

2)財政健全化法(新法)とは
 平成19年6月15日に新法「地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)」が制定、6月22日に公布、平成21年4月1日から計画策定義務などに係わる規定が全面的に施行された。
 これまでの「地方財政再建促進特別措置法(昭和30年)」に代わり、財政健全化法に基づく地方公共団体の新しい財政再建制度が整備され、収支だけでなく、病院、下水道など特別会計や第三セクターを含めた連結ベースで財政状態を把握するためにできた法律である。
 財政健全化法は、「第二の夕張」を防ぐため各自治体状況を早い段階から把握し健全化するためにできた制度で4つの財政指標に基づき、本格実施は2008年度決算からいずれの指標で基準を超えると夕張市並に国の管理下に置かれる「財政再生団体」や自主的な再建計画が必要となる「早期健全化団体」となる健全化判断基準が設けられた。
 新たな4指標は(1)実質赤字比率「一般会計など」、(2)連結実質赤字比率「病院など公営企業会計を含む」(3)実質公債比率「借金返済額が財政規模に占める割合」(4)将来負担比率「借金残高が財政規模に占める割合」などなっており、それぞれ、外部監査を受けて健全化を図る「早期健全化団体」の基準と「財政再生団体」の基準が設けられた。

◎夕張市の2015年(平成27年度)の財政指標(%)一覧

○健全化判断比率(平成30年3月31日 数値:夕張市公表)
指 標 夕張市 早期健全化基準 財政再生基準 備 考
実質赤字比率 15.00 20.00  
連結実質赤字比率 20.00 35.00  
実質公債費比率 71.8 25.00 35.00  
将来負担比率 440.2 35.00  

○夕張市資金不足比率
会計名称 夕張市 経営健全化基準
 市場事業会計  − 20.0  
 公共下水事業会計  −
 水道事業会計  −
※将来負担比率には財政再生基準はない。なお、−表示は、赤字がないための表示

3)財政破綻後の住民活動と意識改革
 財政再建団体に移行し、大量の市の職員は退職され、残る市民の間では、自治意識が芽生え、住民意識も自立の動きが出てきた。
 一番不安なのは、福祉、医療面で行政サービスが低下し、市民の負担増、先行き人口が減少して、どうなっていくのか住民の不安感は否めない。
 従来から行政が担ってきた文化、観光、地域活動などNPO法人の設立などの動きが活発化し、観光ボランティアを中心に「NPO法人ゆうばり観光協会」が立ち上げ、更には、「NPO法人ゆうばりファンタ「」など市民の自主運営の動きが芽生え、住民の意識は従来の官依体質から脱却し、自立への意識改革がなされ行政、住民が一体となっていく方向性にある。
 地域住民と市長を交えた「ゆうばり再生市民会議」では、毎月1回、運営委員会を開催され(1)観光(2)環境防犯(3)福祉などの分科会を構成し実務的な話し合いがされ、桜マップの作成、ゴミのリサイクル、高齢者への命バトン事業など関係団体と連携しながら取り進められている。

4)「再生振替特例債」の発行
 再生計画では、赤字相当額を北海道から一時借入金で資金調達し、財政運営を行ってきたところであったが平成22年3月9日総務大臣の「財政再生計画」同意により、計画期間内償還を条件として同年3月25日に借入したところである。
 夕張市では、財政の健全化に関する法律により平成21年度中の策定が義務づけられた「財政再生計画」に基づき、平成22年3月9日に総務大臣の同意を受け17年間で赤字を解消することとし当初の素案では、平成40年度(19年間)であった。
 新しく施行された「財政再建法」に基づき市が策定する財政再生計画について、当初の353億円を18年間で返済することで財政再建計画を基本とのことで確認され、市立診療所の建て替えを含めた地域医療体制の構築について予算を再生計画に盛り込むことになり、平成19年3月に策定した「財政再建計画」を基本としながら策定後に生じた課題の見直しを図ることとした。

 赤字解消としては、単年度毎の道からの一時金の返済による手法から法で認められた赤字債「再生振替特例債」を発行し、元利償還による赤字解消への移行を図った。再生振替特例債により平成38年度には実質赤字を解消するものであるが、その後も財政再生団体となる3年間については実質公債比率を上回るため(3年平均)平成41年度までの計画となった。
 なお、再生振替特例債の各年度の償還額(省略)322億円 利率1.5%で最初の3年間は新規事業も多いため3年間は据置、平成25年度からは元金を加え、年間25億円6千万円を返済、返済完了は平成38年度には完済完了の計画で進められ、一般地方債の償還もあり、返済合わせて年間約、40億円あり。
 尚、一般財政規模(標準財政規模)が約45億円程度の市の自治体運営は厳しい財政状態に置かれている。


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